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□風の吹く場所
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宿に行き、夕飯を済ませるとアレンが本題に入った。
彼曰く、多少の路銀はあったものの、いつ終わるかわからない旅であるため、お金を稼ぐ手段が必要である、とのこと。
「確かにそうだな」
その意見には誰もが頷く。しかし、王子であるセレスの立場を考えると、危険なものはもちろん不可である。
「そこで、冒険者登録をして、僕達にも出来そうな仕事をしながら旅をするのがいいかと思います」
冒険者とは、旅をしながら行く先で簡単な仕事を引き受けてお金を稼ぐ旅人のことを言った。
その頃は街と街が隣り合っているわけではなく、集落のようなカタチで点在し、街どうしを結ぶ街道には簡素な休息所が設けられている程度だった。途中で盗賊や山賊に襲われることもしばしばである。
冒険者の中にはそういった輩を退治して懸賞金を稼ぐ者もいるし、ある街で日雇い労働をするものもいる。仕事は千差万別であった。
「なるほど…それじゃ、それで危険でなくそこそこ稼げる仕事をしながら旅をすればいいな」
 異議無し、となったところで翌日、早速登録所に出かけた4人は、その人の多さに驚くことになる。
 冒険者登録所、通称ギルドと呼ばれるそこは一般の市民にも仕事を斡旋している。先般の戦争で仕事を失った人々が詰め掛けているのだ。
「ちょっと甘かったかな…」
苦笑いのセレス。将来王となることを約束されている彼は、こういった問題も解決しなければいけないのである。
まだ彼らよりも年下であろう少年少女の姿もある。
「俺があれ位の時は、士官学校に通っていたけどな…」
「それはお金持ちか軍人の家だからですよ。一般市民にはお金がかかりすぎて学校にはいけないんです」
確かにその通りだった。帝国時代、セレスとカインは身分を隠し、帝国騎士団長の養子となっていた。士官学校は軍人になる為の学校であったが、軍略のみならず一般教養も教えられる。しかし、通えるのは軍人の子や特権階級の貴族の子だけ。一般の家では多額の税金に苦しめられ、とても学校にはいかせられなかったのである。

なんとか冒険者登録を済ませた4人だが、あのギルドでの風景を思うと気持ちが重い。
「なんとかならないか?」
「これからは教育も大事ですからね。フィリアに連絡をと取って頼んでおきます」
アルバート共和国の大統領フィリアは、セレス達の戦友であり国内では最も頼れる男である。セレスの代わりに国の一切の政務を引き受け日夜走り回っている。彼ならばきっとこの思いに共感してくれるはず、とセレスはペンを取った。

「あのぉ、冒険者の人がこの宿にいるって聞いて…」
小さな手が彼らの初仕事を持ってきたのは、その日の午後のことだった。
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