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□突然の岐路
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「セレス様、後ろっ!」
 誰が叫んだのか、振り返る間もなくセレスは背中に痛みを感じた。同時に膝をついて、その身に起きたことを理解する。
「おい、やりすぎだろっ…」
 航海士の誰かが叫んだ。
「テメェっ…」
 セレスを斬りつけた航海士をカインが殴りつけ、勢いでその手を離れた剣をアレンが拾い上げる。人を傷つけるつもりはなかったのだろう、他の航海士たちもその血に怯んでいる。その隙をついてリーナもレイチェルも自分をとらえていたものから逃げ、反撃に転じる。
「うわ、やばいっ…」
 いつの間にか降り出していた雨が背中にしみる。なんとか立ち上がろうとするものの、高い波に煽られた船が揺れたと同時に、バランスを崩す。
「だめだ、セレス様っ…
 意識はあるが、出血がひどい。が、アレンがいる、なんとかしてくれる…と思った瞬間、再び船が大きく揺れる。と同時に、縁をとらえたと思った手が滑り、船の傾きに身を任せてセレスは海に飛びこんでしまった。
「セレス様!」
 船上に動揺が走る。海面に広がっていく赤がセレスの死を早めたと思ったからだ。しかし…。
「カイン、そちらは頼みます!」
「おう、アレンも死ぬなよ!」
 その言葉にうなずいて、アレンも海へ飛びこんだ。
「あ、アレンっ…」
「大丈夫ですよ、レイチェル様…二人ともしぶといところありますからね」
 レイチェルには笑顔を向けるが、航海士たちに向き直った瞬間、怒号をとばす。
「おいお前ら!ビビッてる場合じゃない、早く船を持ち直せ!落ち着いてからたっぷり事情を聴いてやるからよ…」
 カインの強さにすっかり怯えてしまった彼らは、おとなしくその声に従うしかなかった。

「ふーん?うまーく定期船に偽装して、俺たちをその小島に連れていこうっていう魂胆だったわけだな?」
「す、すんませんでした、まさかこんなことになるなんて…せめてあなた方3人はホーヤに…っ」
 船に残っていた三人に向かって船長が土下座していた。青ざめた顔を震える身体に、船長らしい威厳はまったくない。
「いや、そういうわけにはいかないんだな…海に落ちた二人を探さないといけない。多分無事だと思うけどな…」
 素人の剣とはいえ、油断していた一撃だ。舵も取れなくなってしまった嵐では、探しに行くこともできない。
「で、あんたたちを雇ったっていうのはどんな奴だった?」
「顔は…よくわからん、ずっとフードをかぶっていたからな…男のようだったが、小柄な人だ」
「そうか…」
 思案を巡らすカインに、そっとリーナが声をかける。
「あ、あの…これは、大統領に報告したほうがいいのでは?港にもホーヤとシュリアの領主様から捜索隊を出していただけるかと…」
「いや、それは避けたほうがいい、かな…?」
「え、なぜです…?」
「フィリアの…大統領の責任が問われる…」
 フィリアには半ば無理を言って度に出てきたようなものだ。王位の継承者であるセレスに何かあれば、旅に出した責任を取りかねない。
「みんながみんなフィリアの味方ってわけでもなさそうだ…余計な心配はかけないほうがいい。この件を利用しようとする人間がいるだろうから」
 フィリアに報告するのであれば、他の者に知られないよう極秘にするしかない。しかし、連絡役でもあるアレンがいない状態では、まずセレスたちの無事を確認することが最優先だった。
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