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□償いの道
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 その日、不気味なほどの静けさで目を覚したアレンは、隣りの部屋でも覚醒した気配を感じると部屋を出てドア越しに声をかけた。
「おはようございます、レイチェル様、リーナ准尉…今日もいい天気ですね」
「お、おはようございます、エルファー少尉!」
 ドアが開かれ、すでに身仕度を整えたリーナが声と共に廊下に出た。続けてレイチェルが顔を出す。
「おはようございます、アレンさん」
 それからほんの僅かな時を経てセレスとカインが合流すると、階下の食堂に降りていく。何人か他の旅人や冒険者がいるにも関わらず、やはり静かなままだ。誰も彼も一言も発することなく食事を続け、厨房で何かを茹でているような音が響いているだけだ。
「夕べはかなり賑やかだったけど…朝はいつもこうなんすか?」
 料理を運んできたシェフにカインが声を掛けるが、反応することなく、厨房に引っ込んでしまった。
「ったく、なんだぁ?」
 朝から不愉快になったカインが無造作にパンに手を伸ばした瞬間、アレンがその腕を掴んだ。
「おい、なんだよアレン」
「…散歩にでも行きませんか」
 周囲に聞こえないような、独り言のようなアレンの言葉にカインが彼を見返す。
「……は?」
「散歩に行こうと言ったんです。さ、行きましょう」
 強引に4人の腕を引くアレンに戸惑いながらも、つられて外にでるセレスたち。アレンが呪文を唱えると、セレスの槍とカインの剣がそれぞれの手元に転送されてくる。
「准尉、弾丸は充分ですか?」
「は、はい!その他異常は何も…」
「そうですね、僕たちには異常なし、でしょう」
「アレン、何かおかしいところでもあるのか?」
 カインが苛立たしげに疑問を投げ掛ける。
「やられました。僕たちは…『紅き風』の罠にはまったようです」
 アレンが見上げたその視線の先を追うセレス。そこで彼らを見下ろしていたのは赤黒いコートを来た男。
「さて、あの坊やたちに出来るかな…?」
 その顔は遊び相手を見つけた子供のような笑顔を浮かべていた。
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