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□想いを一つに
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 その日、カインが荒れていた。元々冷静な性格ではないが、付き合いの長いセレスでさえその荒れようは初めてみるほどだった。
「ふざけるのもいい加減にしろってんだ!」
「カイン、そんな大声を出しては他のお客さんに迷惑ですよ」
「あのなぁっ!お前あそこまでコケにされて悔しくないのか!?」
「なんとも思わないといえば嘘ですが…」
 何も宿屋のロビーで騒ぎたてなくても、となだめようとするが全く効き目がない。
「…一体、何があったんだ?」
 セレスが呆れながらも聞こうとするが、カインは思い出すだけでも腹立たしいと勢いよく立ち上がる。たまたまバランンスが悪かったのか、彼の座っていた木製のイスが大きく揺れて後ろに倒れた。そこになにもなければ、イスを直して終わりになる。しかし、その時はそうもいかなかった。たまたま通りかかった男の足に当たってしまったのだ。
「あ?テメェ、何のつもりだ?」
 カインが振り返ると、そこには強面の男が立っていた。いかにも“その筋”らしい男は、ジッとカインを睨みつけている。
「あ、す、すみません」
 慌ててイスを直し、謝罪するが男はカインの胸倉を掴んで殴りつけるようなそぶりをするが、別の男が寄ってきた。
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。他のお客さんが怖がっているでしょう?」
 ニッコリと微笑んだその顔は妖艶な雰囲気を漂わせているが、眼は鋭いままだ。それを見た男は、チッと舌打ちするとカインを離しその場を去っていった。ふぅ、を胸をなでおろすと、カインはその人に頭をさげる。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「いいえ、どういたしまして。この街にはああいう人が多いですから、気をつけてくださいね」
 では、と足早に去っていく男を見送り、改めてイスに座るカイン。しかし、レイチェルを除く3人が白い目でカインを見つめていた。
「まったく、どうなることかと思いましたよ」
「ああいう人でなくても、あんなことをされては気分が悪いかと…」
「でも、今ので十分頭が冷えたか?」
 面目ありません、と頭を下げるカインに、レイチェルがとどめをさした。
「でも良かったです、何事もなくて。運がよかったんですね」
 その言葉を聞いたカインは固まるしかなかった。事実、そのとおりだから仕方ないのではあるが。しかし、それをニッコリと笑顔で言えるのは恐らくレイチェルだけだろう。
「それより、例の貴族とは会えるのか?」
 カインが落ち着いたところで、やっと本題に入ることができる。しかし、その話になると再びカインの機嫌が悪くなった。
「はい、セレス様にお会いできるのはとても光栄なことだと…」
 しかし、とアレンが言葉を濁した。オリハルコンのことは、あまり良くない方向のようだ。相手が誰であろうが、いくら大金をつまれようが譲るつもりはないという返答があったという。
「そうか…せっかく会ってもらえるんだ、もう一度頼んでみよう」
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