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□求めるは父の影
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 シルミュの北東へおよそ2キロ。シルミュとガゼカドを結ぶ関所に着いたのはその日の夕方だった。簡易的は宿もかねているそこは、旅行者や旅人でにぎわっていた。
「なんか緊張しますね」
 デュークが作ってくれた身分証明書となる魔法石は、もちろん不正なものではないのだが、初めてということもあり、特にレイチェルは不安を隠し切れないようだ。
「レイチェル様、もっと堂々としていればいいんですよ。不正をしたわけではないのですから」
「そ、そうですよね?」
 アレンの言葉にも頷くが、それでも通過するまでは気持ちが落ち着かないらしい。声が少し上ずっている。 ようやく順番がまわり、大事もなく通過すると、やっと胸をなでおろした。養子縁組をした隠れた事情もあり、当然といえば当然ではあるが。
 とりあえずその日は関所で一泊していこうというころになり、男女別に二部屋をとることになった。部屋の周囲に誰もいないことを確かめると、部屋に入るなりカインが突然切り出した。
「なあアレン、クレアスの名前と似顔絵は国内の関所に回っているんだよな?」
「ええ、そのはずですよ」
 『紅い風』のリーダー、クレアス=マークフィールド。帝国宰相だったフォード卿の一番弟子であり、卿の仇としてセレスの命を狙っている男。生死不明ではあるが、共和国中で最も警戒されている人物の一人だ。
「身分証明書になるこの魔法石には、本人の顔も記録されてる。偽名を使っていようが顔が割れてたら関所でも怪しまれる、よな?」
「まぁ、そうですね」
 以前彼と接触した森は、関所を挟んだ南にある。身分証明がなければ関所は通過できず、関所をさけるには原生林や山を越えなければいけない。もちろん、それは違法行為に該当する。
「ただ彼が魔道士だというのがやっかいなんです。以前言ったように別人になることもできますから」
 他にも抜け道はあった。身分証明書をつくるには出生証明書が必要である。そこを逆手にとり、出生証明書を偽造し、身分証明書を2つ以上作ることもできてしまう。レイチェルのように別の貴族と養子縁組をして名前を変えてしまうこともできてしまうのだ。
「まぁガーネットでのことは大統領府にも通っていますから、警戒は強くなっているはずです」
 役人や騎士団も常駐する関所では、迂闊に手を出してこないだろう、というのがアレンの見解だった。いかに魔道士とはいえ、自分がいるかぎりは彼に対抗できるだけでも、分が悪いだろうと。
「ともかく、心配しすぎるのも問題かもしれませんから」
 結局、これまでどおりアレンとカインが交代で見張りをすることで落ち着いた。そしてその日は何事もなく夜が明けた。
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