メイン小説

□憎しみの代償
1ページ/12ページ

憎しみは新たな
憎しみを生む。
その連鎖は
止まることがなく
どこまで続くのか
いつか
それを断つことは
できるのか…



 カルロでの事件から1週間。セレスたちは、カルロから2kmほど南にある港町ホーヤに来ていた。カルロの東には森が広がっており、その先にはディオル皇国との国境になっている。そちらに行くには、北のファルネスから迂回する方法と、ホーヤから船で国境近くの町に移動する二つの方法がある。セレスたちは、まずアルバートをみていこうということになり、ホーヤから国境沿いの町ガーネットへ移動、そこから反時計周りに国内を旅するプランをたてたのだ。
「ガーネットから一度ファルネスに戻るか別のルートを探すか…ま、ガーネットについてからでいいか」
「そうですね。先のことばかり考えても仕方ありませんから」
 セレスの欠点はその無計画性である。先のことをまったく考えていないわけではない。行き当たりばったりな性格なのだ。幼いときから共に育ったカインはそれが慣れたものだが、生真面目なアレンにはそれがどうも理解できなかった。無論、セレスが主だとよくわかっている。しかし。
「セレス様!2歩先、3歩先のことを考えても悪い事はありません。むしろ危険を回避するためには先のことを考えるのは重要なことですよ!?」
 セレスの笑顔が凍りついた。
「そ、そうだな。すまなかった、アレン…」
「なんだよ、そんなにムキになるなって…」
「はい、どうぞアレンさん」
 レイチェルがコップを差し出した。中には白濁色の液体が入っている。きょとんとレイチェルを見つめ返すアレン。
「牛乳です。怒りっぽくなるのはカルシウムが不足するのが原因らしいですよ」
 にっこり笑顔のレイチェル。何を隠そう、この4人で一番怖いのはレイチェルではないかと言われている。普段おとなしい分怒った時にどうなるかわからないのだ。
「は、はい…ありがたく頂きます」
 ゴクっと一気のみすると、宿の食堂へコップを返しに降りていった。階段を降りていく奥が聞こえなくなると、カインが怪訝そうにセレスに目をやった。
「アレン、あんなに短気でしたかね…?」
「いや、そんなことはなかったと思うけど…ま、さっきのは俺が悪かったな。あとで謝らないと。レイチェルもありがとう」
 いえ、とセレスを振り返るが、レイチェルはすぐにでもと付け加えた。
「何か、ヘンな感じがします」
「…ヘンな感じ?」
「はい。あの、何か良くない事がおこるような、そんな気がして」
 レイチェルの顔が暗くなっていく。不安が顔に現われているのだ。
「…不安か?」
「はい。危険なことが起こらなければいいのですが…」
 カインがチラっとセレスに目配せをする。正しくは、何かいって差し上げてください、と目で語っている。
「大丈夫。きっと、大丈夫だ」
 少し考えて、セレスの口から出たのは大丈夫、の一言。
「初めての旅で少し神経質になっているのかもしれないな。でも大丈夫だ。危険は出来るだけ避けるように努力する」
 あてのある旅ではない。しかし、一人ではない。一人にもしない。
「約束する」
 力強く、そう答えるセレスの言葉に、レイチェルはやっと笑顔を覗かせる。そこへ、階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。
「すみません、お待たせして…」
「いや…じゃ、そろそろ行こうか」
「はい。今からなら、夕方にはガーネットに着けるはずですよ」
 仲良く連れ立って、宿を後にする4人。

 しかし。彼らの旅路は決して安全なものだけではなかった。見えない未来に、多くの危険が待っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ