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□風の吹く場所
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 王国暦317年、アルバート共和国の首都ファルネスにほど近いカルロの街。ここでは、ある噂が流れていた。
「知ってるか?王子様が旅に出たって…」
「ああ。数人のお供だけ連れてるって話だな」
「見聞を広めるためって大統領が言っていたけど…」

 アルバート共和国の王子セレスは、17歳。共和国と言っても、王は不在。選挙によって選ばれた大統領が政務をとりしきっている。
 実は、王がいないのには理由がある。セレスの父、ルークは弱冠19歳で王に就任した。先代、先々代の王が相次いで流行り病で没したためだが、それにより国は弱体し、強国マルシーユ帝国に攻められ、その時戦死しているのだ。アルバートはマルシーユ帝国に支配され、セレスも身分を隠し帝国騎士となっていた。しかし現大統領のフィリアの反乱や、セレスの奮起により宰相が倒れ、アルバート共和国の領地を取り戻すことができたのである。
 そしてセレスは王になる前に、自分を成長させたいと旅に出たのだ。アルバート再建に尽力した剣士カイン、魔道士アレン、そしてセレスが帝国を脱出する時に密かに力になった帝国皇女レイチェルと共に。

「まったく、セレス様がこんなに無計画な方だったとは…」
 金髪の魔道士アレン。彼は少々呆れている。なぜかといえば、セレスが突然旅に出ることを決めた為、ロクな旅支度が整っていないのである。
「いや…申し訳ない…」
 これにはセレスも頭を下げるばかり。
「僕達はともかく、レイチェル様まで野宿していただくわけには行きませんからね。とりあえず、カルロで旅支度を整えましょう」
「まぁしょうがないですね。俺は宿をとりにいきます」
 黒髪の剣士カインは一行のムードメーカー役であり、アレンと上手くバランスを保つように、彼の反対の立場にたつこともしばしばある。
「それじゃ、僕達は商店街で買い物でいいですか?」
「ああ。商店街は…こっちだな」
 セレスはお人好しでいわゆる「甘い」考えの持ち主だが、カインもアレンもその人柄をよしとして、次期国王としての期待を寄せている。
「セレス様、そちらは住宅街ですよ?」
「あ、そうか…」
 セレスはいささか方向音痴である。テレ笑いするセレスを、クスクスと笑いながら、レイチェルは商店街の正しい方向を指差し、その優しい笑顔をセレスに向けた。
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