メイン小説

□突然の岐路
1ページ/2ページ

 王国歴318年2月。セレスたち一行はアルバート共和国南西部、シュリアの港にいた。ここから船旅でホーヤに行き、カルロの街を経由してファルネスへ戻ることになる。
「なーんか、拍子抜けだよなぁ」
「いいじゃないですか、何も起きずに無事にファルネスに戻れるとおもえば…」
「まあそうなんだけどさ…」
 二人が考えていることは同じだった。タルバナールを出発してシュリアに到着するまで、関所で多少の足止めがあったものの、大きなトラブルもなく旅をしてきた。シュリアを中心とする共和国の南西部は、マルシーユ帝国の勢力が強かったこともあり、セレスに対する反感が一番根強いと思われていたにも関わらず、だ。
「何もなさすぎるんだよ、不気味なくらい」
「同感です。まるでこのまま油断してくださいと言わんばかりですよね」
 カインもアレンも、周囲に気を巡らせる。が、静かな港町には自分たち以外の乗船客がいるくらいで、怪しい気配は感じられなかった。
「ま、ファルネスに着くまでが旅ですよってね…」
「その通りです。そうだカイン、通信機、大丈夫ですよね?」
「え?ああ、これだろ?」
 アレンに促されて、カインが魔法石を取り出す。普段と変わらず銀色に輝いている。
「ええ、大丈夫ですね。さ、時間です、行きましょうか」
 天候は曇り。乗り込む船は中型の船。嵐がこなければホーヤまでは長いものではない、大丈夫…のはずだった。


「やっぱり、そうそう簡単にはいかないってことか…」
「やっぱり、じゃありません!」
 まったく、主君であるセレスののんびり加減にはあきれてしまう。それが国民から親しまれる王子たる理由の一つになっているわけだが。それが災いして危険を呼んでしまうこともある。今、船の航海士たちに囲まれているように。
「とにかくこの状況を脱すればいい、必要以上に傷つけるなよ?」
「了解です、セレス様」
 カインが剣に手をかけた瞬間、航海士たちが一斉に襲い掛かってくる。しかしたいした相手ではなかった。次々と彼らを制していくが、最後の一人、というときだった。
「待て!」
 一瞬で状況を察したセレスたち三人は背後を振り返る。その目に入ったのは、人質になってしまったレイチェルとリーナだった。
「お、お前らっ…」
 レイチェルはもとより、リーナも銃士と言っても、非力な女性である。特別な訓練を受けているわけではない。何より、自分が抵抗してもレイチェルの身に何かあってはいけないのだ。
「セレス様、も、申し訳ありません…」
「いや、俺たちも油断したよ…目的はなんだ?」
 静かに航海士たちに目を向ける。が、その瞬間だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ