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□恥ずかしい告白をさせてみた(トレスver)
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 今トレスの目の前で、頭痛を堪えるように頭を押さえているシスターは、Ax内に籍を置いて相応の時間が経つ。
 いつだって冷静に任務を処理し、面倒見の良さから一般職員からも好かれている。
 頭の回転も悪くない。戦闘面においても、怪我をすることが多いとはいえ、単独でも任務が任される程の実力は持っている。

 そんな彼女だから、トレスも任務を共にすることが多く肩を並べる時間は多かった。
 だからこそ、今のような状況に彼は驚きに近いものを感じていたのだ。
 いつも通りなら彼の表情の変化に敏感に反応し、嬉しそうに笑ったかもしれないが、残念ながら今の彼女にはそんな余裕全くなかった。


「ちょっと待って、ほんと、私これ系無理なんだってば! 教授呼ぼうよ教授!」


 マニュアルを握りしめた彼女の表情は、任務中の冷静な横顔が嘘のように、狼狽に染まっている。
 冷や汗を浮かべ、何度も無理無理と口にしては、強く首を横に振る。
 先程から、ずっとそれの繰り返しだ。

 紙切れを握りしめる指には、力が入り過ぎていて、ページがぐちゃぐちゃになっている。
 あれでは、後の人間にとっても意味のないものになってしまうだろう。


「簡単なプログラムの点検だけだ。卿でも可能だ」
「いやいや、君、何言っちゃってんの? 私に任せるとか、自殺行為に他ならないから」
「プログラムの扱いは、一通り特別訓練課程で教えられるはずだが?」
「教えられてできるんなら、世の中天才ばっかりだよ!
 私あの試験教授におまけ付けてもらって、Axに入ったようなものだからさ」


 だから、ほんと、勘弁して。
 瞳に涙を浮かべ、できる限りの部屋の隅に後ずさりして、彼女は深々と頭を下げた。
 長生種に囲まれながらも啖呵を切っていたシスターと同一人物とは、どうにも思えない。

 僅か五分程度で終わる点検に、わざわざ教授を呼ぶのも非効率的だと思って、頼んでみたが、彼女の抵抗は予想以上だった。
 明確な理由もないまま、ここまで断固拒否するとは思っていなかっただけに、トレスもどこかしらむきになっていたのかもしれない。
 と言っても、自分の感情(のようなプログラム)にはとことん鈍い彼がそんなことに気付くはずもなく。


「しかし基本は理解しているはずだ。それに卿は、この間も教授からプログラムの講義を受講したと記憶しているが?」
「わあ、さすがトレス。覚えていてもらいたくないことまで、ばっちり覚えてらっしゃる」
「話を誤魔化すことは推奨しない」
「ごめんなさい」


 椅子の上に正座したシスターは、とうとうと質問を繰り出すトレスの猛攻に、必死に耐えている。しかし、良くも悪くも(いや、悪いばっかりか?)容赦のない彼にそんな態度が長続きするわけもない。
 不可能な理由を問いただされると、首筋まで赤く染め、言葉を濁す始末だ。

 レオンあたりがこの光景を目にしたら、「言葉攻めかよ、やるな拳銃屋」なんてからかったかもしれない。
 実際、攻め立てられるシスターは内心そんな気分だった。


「あのですね、確かに色々講義やら何やらは受けて知識だけならあるよ。知識だけ、ならね」
「作業は複雑なものではない。なんの問題がある」
「……この間、事務の方でパソコン一台のデータが飛んだの覚えてる?」
「記憶している。しかし、シスター。再度言うが、話を誤魔化すことは、」
「あれ、やっちゃったの私なんだよ」
「……なんだと?」
「人手が足りないからお願いされたんだけど、なんか気付いたら画面真っ暗になってて」


 嫌な予感が働いたらしい彼女の友人が、データのバックアップを取っていてくれたから大事にはならなかったらしい。


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