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□指先でそっと、
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俯いた彼女の引き結ばれた唇が思いの外赤く、照明の下で艶やかな光を放っていたものだから、レオンは思わず指を伸ばしていた。
しまった、と気が付いたのは無骨な指先に柔らかな感触が触れた時で、言ってしまえば遅すぎる気付きだった。
内心どうしたものかと考えながらも、レオンは彼女の唇から指を離そうとはしなかった。
それは触れられている当の本人が反応らしい反応を見せなかったこともあったが、何より触れた温もりを離し難かったからだった。
ついと顎を持ち上げられ節くれだった指に唇をなぞられているシスターは、しかし声を荒げるでもすぐ傍らに置いた刀に手をかけるでもなく黙ってこちらを見上げていた。
深い藍色の瞳をじっと正面から見つめていると、まるで飲み込まれてしまいそうな感覚に襲われる。
「ちょっとは、反応見せたらどうだ? 一応、状況が状況だぞ」
苦笑を滲ませレオンが言えば、彼女はふつりと口許を綻ばせて、そうね、と考える素振りを見せた。
言葉を発する振動が指先に直に伝わって、更に唇の柔らかさを強めているようだった。
紅を乗せていない唇が僅かに開く。隙間からちらりと赤い舌が覗く。
言葉が飛び出すと思われた口は、しかしまったくそれとは反対の行動へと動いた。
「っ、おい……!」
レオンはらしくもなく声に狼狽を表した。
僅かに開いた口は、何の戸惑いもなく唇に触れていた浅黒い指をくわえたのだ。
唇以上の熱に包まれた指先をどうすればいいか、ともすれば別の衝動に崩れ落ちそうな脳を動かす。
そんなレオンの努力を知っているのかいないのか、相手は至極楽しそうに目を細めた。
いい性格してるじゃねぇか。いつになく挑発的なその笑みに、レオンは精神を沈めようとしていたのも忘れて口許を歪めた。
きっと、今自分は獲物を狙う獣と大差ない目をしている。分かってはいたが、自身を立て直せる範囲からはとうにはみ出していた。
がりりと彼女が指先に歯をたてる。痛み自体は大したものではない。しかし、犬猫の甘噛みのようなそれに恐怖などとはまったく別種の感覚が背筋を駆け抜けた。
歯がたてられた箇所を慰めるように、熱の塊が優しくそこをなぜる。先程目にした赤い舌が、自分の指先に絡み付いている様子が鮮明に脳裏に過った。
ちゅ、と名残惜しいとでもいうような音をたてて、指は温かな檻から解放された。
何処に下ろしたものか分からず、中途半端に宙に浮いた指先に彼女は見せつけるように口付けを落とした。どうかした?、と投げられた言葉にも笑みにも挑発的な色が滲み出していた。
「こういうの、期待してたんじゃないの?」
「言うじゃねぇか。後で止めても遅いぞ」
「ご心配なく」
止めるくらいなら、最初からこんなことしないわ。そう彼女が言い切るよりも早く、レオンはその唇に塞いだ。
触れたそこは指で触れた時以上に柔らかく、そして甘美だった。