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□ユーグ夢
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それはなんてことはないいつも通りの、日常の一コマだったはずだ。
仕事を片付けて、少女と穏やかな午後を過ごしていたはずなのだ。つい、さっきまでは。
「ユーグの指って綺麗だよね」
今しがた言ったばかりの台詞を、再度舌の上にのせて少女は呆然としているユーグに微笑んだ。
指先のある一点に集中していた男は、その言葉で漸く目前の人物へと意識を傾ける。
悠然と笑む少女と指先を幾度か視線が往き来した後、大きく息をついてユーグは混乱した思考を落ち着かせようと試みた。
「……この両手は、作り物だ」
そう、この両手は間違いなく作り物なのだ。血の通わない偽物だ。本来なら痛みも熱も感じない。
そう、紛い物なのだ。だから、指先のある一点に熱が集まるように感じるのはきっと自分の錯覚なのだろう。
「君も、そのことは知っているだろう?」
「ええ、知ってるわ」
もちろん、と言った少女の唇にはグロスが塗られていて、どうしても艶やかに目に映る。ましてやそれがユーグの指先を飾るのと同じ鮮やかな紅のグロスなのだから。
「でも、作り物だから、美しいんじゃなくて。ユーグの一部だから、こんなにも美しいんだよ」
そう言って、少女は今一度男の美しい指先に口付けを落としたのだった。
相変わらずうちのユーグさんはへたれ、げふんげふん!