花鳥風月◇龍姫伝


□【一章】異路同帰、絆の導き
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「──……ん……」


───ここは……?

豊葦原、だよね……

……豊葦原……

戻って、来てしまった……───



豊葦原へ戻ったら、
混乱を避けるためにも、三ノ姫の私は、
二ノ姫の千尋とは離れて行動した方がいい。

そう判断した私は、
あの光の渦に飲み込まれてしまう前、
暫くの間、別行動になる事を、
予め千尋に伝えておいた。


今頃、千尋も無事に白麒麟と出逢い、
導かれて、この豊葦原の何処かに
降り立ったはず………

那岐と風早も、どちらかは必ず
千尋の側に居ると思う。


中つ国が滅亡して、5年間のブランクはあるけれど、
恐らくこの世界の地理自体は、
私が記憶してるあの頃のものと、
あまり変化はしていないはず。

でも、橿原宮以外にも土地勘のある私と違って、
宮から出るのは私の居る離宮へ
来る時くらいだった千尋は、
自分の生まれ故郷へ帰って来たと言っても、
橿原宮以外の土地勘はほぼ無いと思われる。

そういえば……

那岐も、橿原宮以外の土地勘、
あんまりなかったかもしれない……

……大丈夫かな……?



──気を失っていたらしい私が、
豊葦原へ帰還して最初に目覚めた場所は、
何処かの森の中。


応龍か、白麒麟か……

時空の狭間を通り、
この豊葦原へ降り立つ際に願った、
「二ノ姫とは別行動」という私の意思は、
無事に天に聞き入れてもらえたようだ。


千尋達の事は、勿論心配してる。

どこで何をしてるのか、
気掛かりではあるけれど……

私は横たわったままだった身体を起こし、
まずは自分自身に関する事を、
一通り確認してみる事にする。


現代で着ていた高校の制服は、
いつの間にか、中つ国の衣装に変更されていた。

膝下、ふくらはぎ上部位までの長さがある上着は、
全体的に淡い桜色で、腰下辺りから下へ向けて、
明るい紫色、菖蒲(あやめ)色の
グラデーションになっていた。

首から胸上に掛けての肩周りと、
上着の縁取り部分は縹(はなだ)色。

上着の内側は、楝(おうち)色……淡い薄紫色で、
上着の中は、肌触りの良い一枚の絹、
長袖のワンピース風。
そのスカートは、薄い色の上着によく映える、
濃くて綺麗な蘇芳(すおう)色だった。


装飾品は、左足太股に、
控えめだが美しく艶めく
露草色の環(たまき)が二連、重なり付いていた。

そして、左手首には……

五歳の時、初めて応龍の声を聴き、
意思を交わした後に、
いつの間にか嵌まっていた、
御守り的なもの……

応龍と思われる金色の龍が刻印された
水晶のブレスレットが、
再び手首に装着されていた。


“再び装着”というのは、
豊葦原で過ごしている間は、何をしても
絶対に外す事の出来なかったそのブレスレットが、
現代にいた間だけ、何故か私の手首から消えていた。

それが、こうして豊葦原に戻って来たら、
また私の左手首に現れ、自然に装着されていたのである。

……うん。やっぱり外せない。


中つ国滅亡前に私が着ていた、
姫君らしい重ね着衣装と比べたら、
こちらの服装の方が、格段に動きやすい。

それに、この衣装は、
所謂オーダーメイドの特注品なのだろう。

初めて着たのにサイズもぴったりで、
まさにジャストフィットの着心地だった。



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