花鳥風月◇龍姫伝


□【三章】霧の惑いと星の巡り
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───高千穂周辺を支配していた
領主・レヴァンタは、私達との戦いで
逃げ出したまま、戻って来る事はなかった。

支配者を失った常世の兵士達に
なすすべはなく、私達は、
常世の国から高千穂を解放した。

その後、私達は部隊を二つに分け、
かつて中つ国の都があった地──
橿原へと、向かう事になった。

私達は、天鳥船で空路を。
岩長姫は、別動隊を率いて、
陸路で東へと向かっている。

ただ、サザキとカリガネは、
天鳥船を手に入れた後、
いつの間にかいなくなっていた。

根城が無くなった事がかなり
ショックだったみたい。
恐らく、自分の村に帰ったのだろう───



ここは、皆で話し合って決まった
私と千尋の部屋。

私達は、部屋についていた
バルコニーに出て、
爽やかな風に吹かれていた。


「なんだか不思議………」

『ん?何が不思議なの?』

「何て言うか……
今の状況にあんまり実感がなくて……」

『そうだね……私も、
まだあんまり実感湧かないよ』

「……うん」

『……ねぇ?一緒にこの船の中、
少し見回ってみない?』

「そうだなぁ……私は、
もう少しここで風に吹かれてる。李桜、先に見回ってくるといいよ」

『そう?わかった。行ってくるね』

「うん、行ってらっしゃい」


もう暫く、ぼんやりと風に
吹かれていたいという千尋に別れを告げ、
私は、天鳥船の中を散策してみる事にした。


何となく、初めて見た時に綺麗で
感動した部屋、楼台に入ってみる。

するとそこには、いなくなっていた
サザキが一人、立っていた。


『サザキ?どうしてここに?』

私の問い掛けに、サザキは
心外だという風に言ってきた。

「どうして?どうしてって、
李桜……この船の船長に向かって、
そいつはあんまりだ」

『船長って……サザキが?』

「逆に、オレ以外で誰がこの船の
船長が務まると思う?」

『質問に質問で答えないでよ……』


私達が話していると、話し声につられたのか、風早と那岐が入って来た。

「どうかしたんですか?あっ……」

「うわっ…うるさいのが消えて、
やっと静かになったと思ったのに」

那岐の言葉に、サザキはムッとする。

「船長に向かってうるさいとは、
聞き捨てならねぇな」

「えっ?あんたが……船長?」

「お前も李桜と同じ顔すんのかよ……
まぁいい。船の扱いに長けていて、
日向の一族の血を引き……
何より、元々この遺跡はオレらの根城だ。
オレ以外に誰が船長やるってんだ?」

そうサザキに聞かれたので、私は言ってやる。


『カリガネがいるじゃない』

「うわっ、そう来るか?でも、
カリガネは船長じゃねぇな、
あいつは貴重な料理人だ」

「船長なんて決めなくても、
特に困る事はないと思いますけどね。
船もこうして動いているし」

風早の言葉に、サザキが騒ぐ。


「かーっ!わかってねぇな!
月のない空があり、
酒のない宴があろうとも、
船長のいない船なんてものが
あってたまるかっ。
なぁ、李桜。
友達のあんたならわかるだろ?
この船には船長が……このオレが必要だ」

『そんなに船長やりたいんなら、
サザキでいいわよ』


面倒臭そうに私が言葉を返すと、
案の定、サザキは不満足そうに言ってきた。


「李桜ってほんと、冷たいのな…。
その言い方はねぇだろ?是非、船長に……?」


……サザキは、どうしても船長に
任命されたいらしい。

私は溜め息を吐いて、面倒臭いオーラを
全面に出しながら
「はいはい……是非とも船長に
なって下さい、サザキのおじ様」と、
言ってやった。


「おう!任せとけ!それと……
おじ様って言うな、オレはまだお兄さんだ!」

『…30歳過ぎたら、誰でも
おじさんって呼ばれるのよ?』

そう言い返すと、サザキは
溜め息を吐いてしょげた。
けれど、すぐにまた明るい顔になる。

相変わらず、切り替えが早いな…


「さぁて、これでめでたく
この船はオレのものだ。
お〜ら!者共、出てこい!」

サザキが号令をかけると、
どこから来たのかあっという間に
サザキの部下達が集まった。


「大将!念願の船ですね!
俺、嬉しくって泣けてきちまった……」

「ヤッハー!船がありゃ、
胸張って海賊って言えますぜ!」

「………今までの根城と変わらないが」

喜ぶ部下達に混じり、
カリガネが冷静に言う。
だが、その表情はやはり、
少しだけ嬉しそうに見えた。


「さぁ、者共、遠慮はいらねぇ。
くつろげ、くつろげ!」

『え……嘘……皆一緒について来るの?』

冗談でしょう?と呆然とする、
私に、那岐が「李桜のせいだよ」と
溜め息を吐いた。


「おいおい、何不安そうな顔してんだよ?
大丈夫、船長のオレがついてるんだ。
何も心配するこたねぇぜ」

サザキがそう言った、次の瞬間──


───ゴゴゴゴ…!

『何……?』

「おい、何がどうした!?」

「まずい!船がどんどん落ちてる!
墜落する!」

「言ってるそばから……船長、頼んだよ?」

那岐と部下達の言葉に、
サザキが慌てて前に出る。

「そんな事があってたまるか!
船首を上げろ!船体を傾けるな!」

「大将、駄目だ!舵が利かない!」

「くそっ……何が何でも態勢を保て、
船を守れ!」




───………


「李桜、大丈夫ですか?」

『うん…大丈夫……それより、
この船、どうなったの?』

「なんとか不時着したようですね」

私の問いに、風早は安心したように
息を吐いて、状況を教えてくれた。

「とりあえず、船体は無事だな?
……頑丈なもんだ」

サザキの言葉を聞いて、私は問い掛ける。


『ここ…どこなんだろう?』

「橿原……なんて事はないよね」

私と那岐の言葉に、風早が提案する。


「外の様子を見に行ってみませんか?
何か判るかもしれない」

『そうね……千尋を呼んでくる』


こうして、私達は、
天鳥船の外へ様子を見に行く事にした。




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