花鳥風月◇龍姫伝


□【二章】紅き翼の神
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───夜のうちに、土雷レヴァンタの邸から
逃れた私達は、砦に戻って来たのだけれど……

捕まっている人達を助け出す良い方法は、
まだ見つかっていなかった。

サザキの作った炎の結界を
越える事が出来なければ、
邸に入る事も出来ない。

何か必ず、方法があるはず……
そんな事を考えているうちに、朝が来た───




「誰もいない……静かだね。
こんな朝早くなら当たり前か」

『そうね。とても静か、だけど心地いい……
この場所の空気が澄んでいるからね。
……さあ、誰も来ないうちに、早く入ろう?』

「うん。水を浴びて頭をはっきりさせよう」


砦の殆どの人がまだ寝ている早朝。
私達は、近くの泉へと、水浴びに来ていた。

千尋が、水浴びをして
頭をしゃっきりさせたいと言うので、
一人で行かせる訳にはいかないと、
私も一緒に水浴びをする事にした。


「わっ……冷たい!でも、水がすごく綺麗……」

『何だか、禊をしてるみたいだね』

「禊?禊って、あの巫女さんが
水の中で身を清める、あれ?」

『そう。まぁ、私達もそんな
神子なんだけどね。……千尋』

「ん?なぁに?……わっ!」


パシャン!

不意に、千尋に向かって水を掛けてみる。
ちょっとした悪戯心だ。

千尋は案の定驚いたが、すぐに笑顔になった。


「……ふふ、李桜から悪戯してくるなんて、
何だか嬉しいな。李桜は昔から
大人しい子だったから、
こういう事はしないんだと思ってた」

『ふふ……私の“友達”がね、
悪戯好きな子ばかりで。私だって、
悪戯くらいするよ?相手は限られるけど』

「そうなんだ。……李桜?」

『ん?……っ!』


パシャン!と、千尋から水を掛け返された。

「お返しだよ、ふふっ」

『……ふふ……久しぶりだね、こうして遊ぶの。
現代にいた頃、お風呂で水鉄砲やったよね』


そんな他愛ない会話を楽しみながら、
私達は久しぶりに、
姉妹水入らずの時間を過ごした。


数分後──
すっかり気が緩んでいた私達は、
泉に近付く気配に気付かず、
温泉のように泉でリラックスしていた。


──ガサガサ………


「『!!(誰か来たっ?)』」

「ど、どうしよう!まずいよ……
どこか木の影にでも隠れなきゃ!」

『駄目、間に合わない!
とりあえず肩まで水に浸かって!』


「…………」

『…………』


数秒間の沈黙の後………
背中から聞こえて来たのは、
見知った人の声だった。


「……ニノ姫、三ノ姫」

「は、はい……!」

『その声は……忍人さん?』

「砦に姫達がいないと、
皆が探していたぞ。こんな所にいたのか。
出掛ける時は、俺か風早に
声を掛けてくれないか」

「す、すみません……」

『ごめんなさい……』

「それと、ここにある武器は君達のものか?」

『うん、そうだよ』

「全く…軽率だ。水に入る時とはいえ、武器を手元から離すな。俺が敵なら、君達は死んでいた」

「は、はい…ごめんなさい…」

『ねぇ、忍人さん?』

「何だ?」

『私達、そろそろ水から上がりたいの……
服を着たらすぐに帰るから、先に帰ってて?』

「……ああ、わかった」


ガサガサ……


「………行った?」

『……うん、行ってくれた』

「びっくりしたね……
それより私達、何も服着てなかったのに……
全然気にしないで、お説教だけして
行くなんて……それはそれでショックだ」

『……まぁね、彼はああいう人だから……』

「何だか、いろんな意味で目が覚めたよ……」


私達は、男性に裸を見られた
恥ずかしさより、何の感情もなく
説教を受けた事のショックで、
複雑な思いを抱きながら、国見砦へと戻った。




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