花鳥風月◇龍姫伝
□【一章】異路同帰、絆の導き
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そして、武器である天麗笛。
一ノ姫姉様にあの笛を渡されてから、
私は中つ国に居た頃は勿論、
現代に居た頃も、色々と重宝するあの笛を、
ずっと愛用していた。
応龍の神子である私だけが扱えるという
あの笛は、必要な時にその名を呼べば、
何処に居ても必ず
私の元に現れてくれるというシステムだった。
そのため、常に持ち歩く必要もなければ、
落として紛失したり、
何処かに置き忘れる心配もない。
恐らく、万が一敵に狙われて奪われても、
私が呼べばこの手に戻って来てくれるはず。
そんな、安心と信頼のセキュリティシステムなので、
今、手元に武器が無くても、
私は特に不安になる事はなかった。
一通り、自分に関する事の確認を終えたため、
次は現在地を知る為に、
この森の周囲を探索してみよう。
そう思った時だった──。
──ガサガサ……
『……!』
(誰か、近付いて来る……)
不意に、背後の茂みが草葉を揺らし音を立て、
同時に、何者かが此方に向かって歩いて来る
足音が聞こえた。
荒魂などの危険な気配ではない。
けれど、この森にも居ると思われる
私の“友達”の気配でもない。
同じ、人間の気配だ。
──私は、中つ国が滅亡してからの豊葦原を知らない。
だが、此方に飛ばされる前、
現代で柊が「戦の最中へ」と言っていた。
この豊葦原は、中つ国滅亡後、
敵国となった常世の国に、やはり支配されてしまったんだろう。
そして、生き残った中つ国の残党勢力が、
今でも常世の治世に抗い続け、戦が続いている………
だから、私に近付いて来るこの気配の相手が、
私達の、中つ国の仲間のものとは限らない。
常世の者かもしれない。
けれど、もし、常世の人間であっても、
あの人ならば………
私の、数少ない“人間の友達”の一人だった、
あの皇子だとしたら……───
警戒心と淡い期待を抱きながら、
私は、いつでも戦闘体勢に入れるよう、
気を集中させて、気配の主の登場を待った。
──ガサッ…ガサガサ…
『……!!』
「……!!」
森の奥から現れた青年と、
その青年の姿を目にした李桜は、
互いに目を見開いて驚き、そのまま暫く、
お互いに見つめ合った状態で、硬直した。
瞬き以外の動きが止まっていた二人だが、
先に動いた李桜が言葉を発した事で、
止まっていた二人の時間が動き出す。
『忍人…さん……?』
「三ノ姫……!」
確認の声を口に出すと同時に、
ごく自然に二人の身体は惹かれ合い、
相手の元へと駆け寄り…
強く、抱き締めあった。
『忍人さんっ!生きてた……良かった……!
本当に、あの時の約束……守ってくれたんだ……!』
「姫……お戻りに、なられたのですね…?
ずっと、貴女に……お逢いしたかった……」
青年の腕に抱かれ、彼の胸の中で李桜は、
青年と無事に再会を果たせた嬉しさと、
彼が生きていてくれた事への安堵と感謝で、
素直に涙を流し、強く強く、抱きついた。
離れ離れだった、
今日までの五年間の空白を埋めるように……
李桜の想いに応えるように、
青年も李桜を強く抱き締め、
久しぶりに触れた三ノ姫の全てを慈しむ、
幸福に充たされた至極優しい眼差しで、李桜の髪に触れ、
頭を撫でて、存在を確かめるように、
頬へと手を添える。
互いを見つめる、甘く細められた瞳が
肯定の意思表示となり………
二人は、どちらからともなく
再会を喜ぶ記念の口付けをした──。