☆ロイ受☆

□愛煙家は愛焔家
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十一月も終わりに近づき、外はすっかり冬の風が吹くようになった。
時計はちょうど午後十一時を指している。
ほとんどの軍人達は仕事を終えて帰り、東方司令部内は静かなものだ。
そこにコツコツと歩く音が響く
その足音はまるで見えない力に引っ張られるかのように自然すぎるくらい自然に、ある部屋へとたどりついた。
そしてノックをすると相手の返答も待たずにガチャリと戸をあけるが、戸の向こうの相手はまるで動じず、それどころか開けられた戸に顔さえ向けずに声だけを響かせた。
「ハボック、何の用だ?」
その声音には、どうでもいいような、うざったいような音が含まれていた。
ハボックはそれに気付きながらも全く気にした様子は見せず、返事を返す。
「いえ、とくに用はないんっすけど・・・・・・大佐、また残業ですか?」
「見てわからないか?」
簡潔に答えてロイは書類に集中する。
そんなロイから目をはなし、ハボックは給湯室へと向かうと慣れた手つきでお茶を入れる。
ホークアイほどではないが、ハボックもお茶を入れたことは何度もある。
まぁ、人並みには美味しいお茶を入れることができるのだ。
ハボックはお茶をロイのもとまで持っていき机の上に置いた。
ロイが礼を言おうと口を開いたとき、ハボックが先に声を発する。
「俺も残業まぜてくれます?残業デートVv」
ハボックの言葉を聞き、ロイの頭に浮かんでいた礼の言葉はいっきに吹っ飛び、かわりにため息と呆れかえった声がでてくる。
「バカもの。お前はもう仕事は終わってやることもないだろう。さっさと帰れ!」
ハボックはにやりと笑うと大佐の机に置いた湯飲みを指さした。
「仕事なんていくらでもつくれますよ。大佐様にお茶を入れてさしあげるとか、少しでも疲れが日に響かないように肩をもんでさしあげるとか・・・」
「お茶はもう有り難くいただいた。肩も凝っていないからけっこう!お前がやるとセクハラとかわらん。」
そんな手厳しいロイの言葉にハボックは肩をすくめる。
ロイはハボックを無視するようにまた書類とにらめっこを始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハボックはしばしロイが仕事をしている姿を見つめ、何の前触れも無しにかみつくようなキスをする。
手はロイの顎をしっかりと固定しており、逃げることはできなかった。
それより何よりロイ自身がまったく逃げる素振りを見せなかったのだ。
キスに酔わされるでもなく、拒むでもなく、かといって快く受け入れた風にも見えなかった。
ロイは平然と、まるで他人のキスシーンでも見ているかのようだ。
冷めた目で自分の状況を見つめていた。
やがてハボックは口をはなし、ロイの顔を見ながら苦笑を浮かべる。
「目くらいつぶってくれてもいいじゃないですか〜。少しくらい雰囲気ってものを」
「お前と雰囲気を出してどうするんだ。馬鹿なことをやってないで帰れ」
ロイはまるで何も無かったかのように再び仕事に戻る。
ハボックははぁ〜っと深くため息をついた後「冷た・・・」と小さく一言もらした。
ロイは小さな言葉をしっかりと耳でとらえていたがまったく気にせず、手をひらひらさせて出て行けと催促する。
「はいはい、わかりましたよ。お疲れ様っした〜。」
ハボックは仕方なく部屋を出て、またコツコツと足音をたてて歩き出した。




ハボックは外へ出ると疎らに星の散らばった空を見上げて苦笑を浮かべる。
「あなたを恨みますよ・・・中佐・・・」
意味だけをとると重みのありそうな言葉なのに、口調にはそれをまったく感じさせない軽さがある。
ハボックはロイがヒューズに思いをよせていたことを知っていた。
知らないはずがなかったと言うべきか・・・
誰もが驚くような事実だが、ロイのことを一番見ていたのはホークアイよりハボックのほうなのだ。
それを匂わせないのがまた彼らしいといえば彼らしい。
ロイはヒューズの前でだけ弱い部分を見せていた。
ヒューズだからこそ見せることができたのだ。
ヒューズがいたから、大佐としての強いロイがあったっと言っても過言ではない。
東部と中央という距離が二人にはあったというのに、近くにいたハボックが入る隙などなかったのだ。
それを十分に承知していたハボックはせめてロイの中で最高の部下となれるように秘かに努めていた。
いや、そうせざるをえなかった。
思いが届くことはないとわかっていたからこそ、それを別の形でどこかにぶつけたかったのだ。
いつも余裕のある顔を保つために・・・・・・
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